セキュリティに興味のない人の意識を高めるには

仕事で使っている道具をまともに把握できないのは何かの欠格者です。

これを読んで思ったことがあるのでちょっと書きます。*1

以下が思ったことです。*2

結論:

  • 批判者の発言としては適切でも充分でもない。
  • この視点で語り続けても有益な成果は生まれない。

結論の解説:

  • 批判する者は現実的な「代案/解決案」を用意して批判しないと、批判者としての責任を満たさないでしょう。厳しい言い方になってしまいますが、「言って言いっぱなしでいいんだ!」では、他人の資格や責任について批判する資格がないと思います。
  • 倫理観が足りないというなら理解できますが、欠格者という言葉は適切でないと思います。[適格/欠格]の基準が無い中で、誰か特権者が[適格/欠格]の判断をするというのも違うと思いますし。まず広く納得してもらえる基準を提示して、その基準に照らしてでなければ、[適格/欠格]の指摘に説得力がありません。
  • 「まとも」の定義が不足しています。これは人によってかなり受け取り方が違うでしょう。私は、意識の高い人の「まとも」を強引に押しつけることは、まったく無益だと思います。これでは無用な反発を生むだけで、むしろ悪化させる可能性があります。
  • 以上のように、これは自分の価値観を押しつけ、ばっさり切り捨てているだけと言えます。欠格者と言って貶めることは、当人の利益にも恐怖感にも結びつかず、敵意を生む効果しかないですから、問題解決にはまったく結びつかないと思います。

ある企業のモラルがどうの、個人の人格がどうのを直截に批判しても、具体的な改善は望めません。なぜこのような状況があるのかを細かく見て、具体的な改善策を提出し、それをもって批判の根拠にしなければ、前進はないと思います。
というわけで、さらに詳細に考えてみたのが以下です。

1.利用者にとっての「使いこなせる」の意味

たしかに「道具を使いこなす」という場合の意味は、安全に使うことも含まれていると思います。でもそれって、

  • 誰もが高いレベルで
  • どこまでも安全に

ということではないと思います。これを求めることの愚は、セキュリティについて考えたことがある人なら痛いほどわかることだと思います。100%を求めても無意味です。

また、これをできる限り目指すにしても、今これを要求して意味のある結果が得られるとは思えません。重要なプロセスをすっ飛ばしたら、目的が達成できるわけありません。

で、その重要なプロセスとして、仕事で使う利用者が「どんな性格の存在なのか」を考えてみます。

たとえば、自動車の好きな人は自分で整備できる場合がありますが、仕事で使っているプロドライバーでも整備できない人はたくさんいるでしょう。宅配ドライバーとかタクシー運転手とか。彼らは運転のプロであって整備のプロではないですから、整備ができる程度に理解をしている必要性は低いです。もちろん、理解していて損はないですが。

利用者は制作者でも専門家でもないですから、作り方や構造・仕組みをすべて理解している場合は少ないでしょう。利用者は目的達成のために利用したいのであって、中身すべてを知りたいわけではありません。最低限の安全措置を講じることはしても、それ以上は個人のモラルや興味に左右されると思います。

ですから、

  • 利用者にとっての「使いこなす」は、それを使って目的を達成するのに困らない程度の習熟度を意味する

のだと思います。残念ながら、必ずしも「安全に」とは考えていないでしょう。

もちろん、安全が義務付けられている職種や業種は別です。一般的に危険性が認識されており、安全性を考慮するのが当然と思われているものも別です。

明確に義務付けられている仕事に就いていたり、一般的に危険だと言われている道具を扱う場合、業務上の義務や道具の危険性を知る機会がたくさんありますが、義務付けられていなかったり専門的であればあるほど知る機会は激減します。一般的なものと専門的なものを同列に語ったところで、現実を変えることはできません。無意味です。

2.全体的に、基準や教育の不足がある

次に、単純な道具とハイテク機器との性質の違いを考えました。

刃物や爆発物などは、その危険性が一般によく理解されていますが、ここ最近発達してきたハイテク機器などは、その性質や危険度・仕組みなどがまだまだ一般には理解されていません。*3つまり、専門性が高いのです。

また、刃物や爆発物は、幼少時から何度となく繰り返して危険性を知らされます。映像でも、人を斬るシーンや爆発炎上するシーンが描かれます。ところが、PCなどはあまり危険性を題材に映像が作られていません。*4

幼少時からPCを扱っていたり、授業で習ったりすれば自明かも知れませんが、そうではなく業務上の必要があって覚えた場合などは、なかなか馴染めないまま使っていることもあるでしょう。それに対しての教育が不足しているのは事実だろうと感じます。

ところで、教育をする上では、概念的なことを教えるよりも、具体的なことを教える方が効果が期待できます。これは工事現場の作業者なども同じです。

ここでの敵は、

  • そのくらい当たり前だろう。義務だ、義務。

という考え方です。これは解決にはまったく結びつきません。
まず、やってはいけないことを具体的に教え、それからなぜなのかを教えなければなりません。しかもそれが専門的ではいけません。一般的と言えるレベルまでわかりやすく広める必要があります。そこまでやらないと効果は低いです。
当たり前のことをやらない人は、知らないから、または当たり前だと思っていないからやります。それに対して当たり前という理由を持ってきても、彼らは受け容れません。

3.興味がなければ目の前にあっても気づかない

さらに、「なぜ利用者は、具体的にわかりやすく教えないと受け容れないのか」を考えてみました。

利用する上でのモラルとか最低限の知識というのは、知っている側からすれば自明です。でも、前述したように誰にとっても自明というわけではありません。

  • 興味を持っていればすぐに気づく
  • 興味を持っていなければ目の前にあっても気づかない

これが人間です。興味がなければ、目の前に情報があっても見向きもしないのです。仮に必要性があっても、興味を持たなければやっぱり目に入りません。これは、それでいいのか?という話ではなく、これが現実だという話です。

使い方に興味があれば、使い方を知ろうとするでしょう。なので利用はできます。しかし、危険性や安全性に興味がなければ、それを知ろうはとしません。ここに問題解決の糸口があると思います。

4.興味がなければ、難しい話は難しい話

もうちょっと興味の話を続けます。

これだけPCが普及し、様々な入門書もあり、Webでも多様な解説やTipsが氾濫している時代であってさえ、やっぱりPCやネットワークの知識は専門性が高いと思います。基礎知識があるならともかく、まったくの門外漢が手を出すには難しいと感じるのは想像に難くありません。それに加えて興味がないとなれば、難しい話がさらに難しくなります。

たとえば、私がどれだけわかりやいようにと気を配っても、最終的に出てくる感想は「やっぱり難しい」という人がいます。その人はPCにはまったく興味をもっていませんから。

では、その人に「セキュリティは大事*5だから、少しずつでも自分で勉強した方がよい。企業人としては、むしろ義務のようなものだ。」と言ったとして、効果が期待できるでしょうか?

答えは馬の耳に念仏です。効果はまったく期待できません。いや、だってホントに効果無かったし(^_^;)。

その人にとっての最優先事項は自分に与えられた職務を遂行し、業績を上げることです。普通はそれに興味があるはずです。また、他のことにも興味を持っているかも知れません。そういった最優先事項や興味のあることに直接繋げて説明できない限り、彼の心には無意味な言葉でしかありません。逆に、無理なく繋げることができれば、こちらの話に興味を持ってもらえるはずです。

5.では、どうすれば興味を持たせられるのか

私は、その人にとっての「大切(メリット)」に結びつけるか、その人にとっての「恐怖(デメリット)」に結びつけるかの2つしかないと思っています。

この「大切」や「恐怖」に結びつかないものは、結局他者の意見に過ぎません。その人自身の意見ではないのです。自分の意見でないのに自分から動く道理はありません。ですから、その人が自分の意見として「セキュリティに気を配らねば」と思うように持っていくのが、一番実効性が高いのです。

6.具体的にどうするのが解決への早道か

たとえば自動車の場合、交通事故というのは一般人でもよく知る危険ですし、車検のように交通事故を予防したり、自賠責のように事故を起こした時の最低限の準備をさせる制度があります。他にも、任意保険もありますし、運転の資格制度もあります。

「安全に運転する」ということがこれほどまでに要求されていれば、安全に感心が無くてもさすがに自覚するでしょう。しかしそれでも、減点対象になるまではシートベルトを締める人が少なかったことからわかるように、「危険だ」ということだけでは自発的な対策はしないものだと思います。

これを端的に解決するには、処罰や奨励金制度を設けることがまず考えられます。安全意識の高い企業ではすでに導入されているでしょう。しかし、企業に自発性を求めることも私は根本的に間違っていると考えています。

では、どうすればいいのか?

いたずらにルールを増やしたいわけではないですが、妥当な基準がない中で善し悪しを論じても無意味です。なので、まず妥当な基準を作り、それに従う義務を定義するのが現実的な解決への道だろうと思います。

具体的には、ここで書いたように、登録制度や自賠責のような最低限の保険への加入義務を設けるのが、実効性が高いと思っています。これなら、セキュリティに取り組む動機が明確になります。より高いセキュリティ対策を施していればいるほど、保険料が安くなる商品なら、なおさら動機付けになるでしょう。

ということで終わりです。

*1:ただ「まともに把握」が指している正確な意味がわかりません。また「何かの欠格者」とは資格の無い者という意味以外にも含みがありそうですが、それがどんな意味かもわかりません。なので、この文章の意図と私の捉え方が相違している可能性があります。その場合は、その旨指摘してください。

*2:すいません、ちょっと厳しい内容になってます(^_^;)。たぶん誤解はされないと思いますが、ただ単に、公開されている意見に対しての反論と、そこからの発展をまとめたものです。個人攻撃のつもりはさらさらないので、念のため。

*3:というか、たぶん永遠に一般的にはならないでしょう。たとえば、現在のPC技術の知識が一般的になる頃には、もっと進化したPCが標準になっているでしょうから。

*4:映画「ザ・インターネット(「ジ」じゃねえのかよ…。)」で変に取り上げられたくらいですかね。

*5:この場合の「大事」は、彼にとっての「大事」とは結びついていない。だから大事な話として受け容れることはない。